世話人との対話 その1

日本理学療法推論学会 世話人との対話 第一回 堀と田代

2024/12/06

1. 日本理学療法推論学会の設立背景と目的

  • 理学療法に特化した推論の体系化が不十分であると感じ、思考プロセスを明確化し、理学療法士のアイデンティティを確立するために学会を設立。
  • 医師のリスクマネジメント的な「臨床推論」と異なり、理学療法における問題点の特定と予測、プログラム立案を重視。

2. 理学療法推論の2つのフェーズ

  • フェーズ1: 検査結果(例: 膝関節屈曲90度)の意味を生活や課題に結び付ける。
  • フェーズ2: 検査結果を統合・解釈し、仮説を立てるプロセスを構造化・ルール化。

3. 教育と実践での課題

  • 現在の教育では推論プロセスが曖昧で、評価結果を統合し解釈する方法が体系化されていない。
  • 自由記述形式のカルテが多く、データが活用されにくい現状を改善し、理学療法士の価値を客観的に示す必要性。

4. 理学療法推論のOS的役割

  • 推論を「OS(オペレーティングシステム)」に例え、その上に運動器、中枢神経、呼吸器などの専門分野(アプリケーション)が乗る形で整理。
  • OSを整えることで、分野を越えた汎用性が生まれ、若手理学療法士がどの領域でも柔軟に対応できるようにする。

5. 学術集会の実践的アプローチと交流

  • 2025年3月1日・2日に第1回学術集会を開催予定。セミナーやワークショップ形式で推論の実践的学びを提供。
  • 懇親会ではゲーム大会などを企画し、学びと交流の両立を目指す。


では、始めさせていただきます。今日の話は「日本理学療法推論学会 第1回世話人との対話」というテーマで、世話人の田代さんと、代表である私、堀が話をさせていただきます。

田代
よろしくお願いします。


今日は田代さんから質問をいただきながら、私が解説するという形で進めていきたいと思います。

田代
わかりました。では最初に、学会について簡単にお話しいただけますか?


はい。「日本理学療法推論学会」という学会を新しく立ち上げました。「推論」という言葉自体は、「臨床推論」という言葉が主に知られていると思います。ただ、この「臨床推論」という言葉は、主に医師がやる内容が多いんですね。

田代
確かに、そういうイメージがあります。


医師の場合、基本的には「ミスを犯さない」ということが主眼に置かれています。ヒューリスティック判断、つまり人間的な直感や経験則に頼らず、データに基づいた意思決定を行うという考え方です。これが「臨床推論」や「リスクマネジメント」という言葉の背景にあります。

田代
なるほど。医師にとっては、そういうリスクを回避するプロセスが重要なんですね。


そうです。それ以外では、薬剤や看護の分野でも「臨床推論」という言葉が使われます。ただし、理学療法では少し事情が異なります。理学療法で「臨床推論」という言葉が使われ始めたのは、1980年代後半にオーストラリアのヒグさんという方が提唱したのが最初だと思います。

田代
日本に入ってきたのはいつ頃なんですか?


日本では2000年頃ですね。ただ、「臨床推論」という言葉の定義は非常に広く、日本理学療法士協会でも定義されていますが、どうしても広すぎる内容なんです。

田代
それで、理学療法に特化した「理学療法推論」という形で再定義したいと考えられたわけですね。


はい。理学療法の思考プロセスについて解説できる学会を作りたいという思いから、この学会を立ち上げました。

田代
なるほど。医師のリスクマネジメントとは少し違った形で、理学療法の推論を深めていくわけですね。


その通りです。理学療法においても間違わないこと、つまりリスクを避けることは非常に重要ですが、それだけではありません。理学療法の推論では、まず問題点を明確に表現できるようにすることが重要です。

田代
問題点を明確にすることが出発点になるわけですね。


はい。そして、その問題点から予測を立て、具体的なプログラムの立案につなげていく。これが理学療法推論の根幹だと考えています。

田代
なるほどですね。それに関連して、現状、そういう推論がうまくなされていないとか、教育システム上まだ学びきれていない部分があると感じられたのは、どういう経験からですか?


ありがとうございます。前職の大学で、特に「臨床推論」という科目を教えていたときのことです。評価学の延長で「臨床推論」を教えていたんですが、その過程で自分でも文献を調べていきました。

田代
はい。


ところが、まとまった形で提供されている資料がほとんどないという状況だったんです。いろいろと調べても、定義も含めて非常に散らばっていて、これでは学び手が困るだろうと感じました。

田代
それで「まとめないといけない」と考えられたんですね。


そうです。「理学療法士って何なのか」という問いに対する明確な答えが必要だと思いました。理学療法の思考、つまり理学療法推論がその中心にあるべきだと考えたのがスタート地点です。

田代
確かに、理学療法士としてのアイデンティティや意思を示せる形が必要ですよね。


ええ。ただ、それを定義づけるための材料があまりにも少なかったのが課題でした。

田代
私が学生だったときのことを振り返っても、評価の仕方や介入方法などの具体的な技術は教えてもらいましたが、推論のプロセス自体を体系的に学んだ記憶はあまりありません。


そうなんです。一般的にはSOAP(Subjective, Objective, Assessment, Plan)のようなフレームワークがあって、それを基に統合と解釈を行う形が基本だと思いますが、その「統合と解釈」の部分が非常に曖昧なんです。

田代
そのあたりが理学療法推論学会の中心になる部分ですか?


はい、特にSOAPという方法論自体は、もともと看護師が使うことを想定して生まれたものです。理学療法には、もう少し具体的で構造化されたアプローチが必要です。

田代
看護との違いもあるんですね。


はい。理学療法向けにはSOAPにT(トリートメント)とE(エフェクト)を加えた「SOAPTE」という形式が存在します。これは、治療(T)を行い、その効果(E)を評価するという一連の流れを含んでいるものです。ただ、現状ではSOAPの「P(プラン)」で止まってしまい、TとEがきちんと記載されないことが多いんです。

田代
その部分が不足していると、アセスメントが曖昧になってしまうということですね。


その通りです。アセスメントを明確にし、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)のようにプログラムを回していく仕組みを、理学療法にもっと浸透させたいと考えています。

田代
なるほど。それが「理学療法推論を体系化する」ということなんですね。

田代
それにしても、理学療法推論にはフェーズごとに明確な構造があるんですね。堀先生がおっしゃった2つのフェーズについて、もう少し詳しく教えていただけますか?


はい。まず、第一のフェーズですが、検査結果が示す「意味」をどのように理解するかがポイントです。

田代
「意味を理解する」というのは具体的にはどういうことですか?


例えば、膝関節の屈曲が90度しかできないという結果があったとします。この90度という数値そのものではなく、その結果が生活にどう影響するかを考える必要があります。「正座ができない」「高い段差を登れない」「自転車のペダルを漕げない」といった具体的な影響ですね。

田代
なるほど。それをきちんと捉えることで、患者さんの課題がより具体化するわけですね。


その通りです。そして、このフェーズを経て、第二のフェーズに進みます。それが、さまざまな検査結果を「統合」し、「解釈」することです。

田代
統合と解釈ですね。


はい。関節可動域、筋力、麻痺の有無、感覚の評価、さらにはフィム(FIM)など、さまざまなデータを集めて一つの仮説や判断に結び付ける。この「統合と解釈」を適切に行うためには、一定のルールや構造が必要だと考えています。

田代
確かに、統合と解釈が自由すぎると、判断にばらつきが出てしまいますよね。


まさにそこが課題です。現在のカルテ記録では、自由記述の部分が多く、個人の裁量に任されていることが多いです。そのため、データが一貫性を欠き、後から見ても活用しづらい。これを改善するために、記録の構造化が必要だと思っています。

田代
データの構造化ができれば、解析や活用の幅が広がりそうですね。


そうです。構造化されたデータは、AIやビッグデータ解析に活用できますし、理学療法士としての仕事の価値を客観的に示すことにもつながります。さらに、個人のスキル向上だけでなく、職業全体としてのレベルアップにも寄与するはずです。

田代
そうなると、理学療法推論は、理学療法士全体の価値を向上させる鍵になりそうですね。


その通りです。理学療法士一人一人が、自分たちの仕事の意義をより深く理解し、社会に訴えかけられる力を持つこと。それが、理学療法推論学会の目指すところです。

田代
すごく納得感があります。理学療法推論をOSに例えると、いろいろな領域に応用できる汎用的な基盤として機能するということでしょうか?


はい、まさにその通りです。OSという表現がわかりやすいと思います。OSがしっかりしていれば、その上にどのようなアプリケーション(運動器や中枢神経、呼吸器などの分野)が乗ってきても対応できるようになります。

田代
なるほど。それでは、この理学療法推論を学ぶことで、特に若手や学生にどのようなメリットがあると考えていますか?


比喩的に言えば、理学療法推論は「iPhoneのOS」のようなものです。運動器や中枢神経といった専門分野は、その上で動くアプリケーションに相当します。

田代
OSがしっかりしていれば、どんなアプリケーションにも柔軟に対応できるということですね。


その通りです。例えば、iPhoneをうまく使おうと思うと、LINEやX(旧Twitter)の使い方を学ぶだけではなく、音量の調整や画面の明るさの設定、通知音の管理など、OS全体の操作方法を理解している方が便利ですよね。

田代
確かに、それが理学療法推論の役割だと考えると、広がりがイメージしやすいですね。


ありがとうございます。理学療法推論を学ぶことで、自分の考えを整理しやすくなり、評価結果を適切に読み解く力がつきます。それが結果的に、理学療法士全体の質向上にもつながると考えています。

田代
そういったOSがあることで、どんな分野に進んでも対応できるというのは、若手にとって非常に重要ですね。


はい。また、現在の教育システムでは、どうしても実習で経験した疾患分野だけに特化しがちです。例えば、実習で脳卒中患者を担当した学生が「就職先も脳卒中に特化したところを選びます」といった具合に。

田代
わかります。学生の視野が狭まってしまうことがありますよね。


そうなんです。でも、理学療法推論を学ぶことで、どの分野でも応用できる共通の基盤を持つことができます。これにより、「これしかできない」ではなく、「これもできる、あれもできる」という広がりを持てるようになります。

田代
なるほど。OSが整っていることで、自分の専門分野以外の領域にもスムーズに移行できるわけですね。


その通りです。理学療法推論を学ぶことは、個人のスキル向上だけでなく、理学療法士全体の職業価値を高めることにもつながります。

田代
それでは、学会の具体的な活動について教えていただけますか?


来年3月1日と2日に、第1回理学療法推論学会の学術集会を開催します。この学会では、従来の学術発表会とは異なり、セミナーやワークショップ形式で学びを提供する予定です。

田代
セミナーやワークショップ形式なんですね。それは面白そうです!


はい。理学療法士が、日々の臨床で感じる課題を解決できるような、実践的な内容を盛り込む予定です。また、懇親会も計画していて、参加者同士の交流も楽しんでいただければと思っています。

田代
懇親会ではどのようなことを?


ライブハウスのような場所を借りて、ゲーム大会や楽しい企画を予定しています。学びだけでなく、遊びも一緒に楽しみたいですね。

田代
いいですね!勉強も遊びも充実したイベントになりそうです。


はい。初回ということで、ぜひ熱量の高い方々に参加していただきたいです。

田代
それでは、今回の学会を通じて、堀先生が目指している理学療法推論の全体像や今後の展望について、もう少し詳しく教えていただけますか?


もちろんです。まず、理学療法推論を体系化することで、個々の理学療法士が自分の思考を整理しやすくなります。そして、それが学会としても、理学療法士全体の価値向上につながると考えています。

田代
個人のスキルだけでなく、職業全体としての価値を高めていくということですね。


その通りです。さらに、理学療法推論をOSに例えるなら、その上に乗るアプリケーションとして、さまざまな専門分野が広がっていきます。現在は運動器や中枢神経などが中心ですが、将来的には呼吸器、心臓リハビリテーション、メンタルヘルス、ウィメンズヘルスなど、より多様な分野に展開していきたいと考えています。

田代
それはすごく将来性がありますね。理学療法推論が進化していくことで、理学療法士の役割もさらに広がりそうです。


はい。そして、これまでの理学療法では、どうしても技術や知識が「個人の経験」によるところが大きかったんですね。それを、より多くの人が共有できるルールや構造に基づいて学び、実践できるようにしたい。それが、この学会の狙いでもあります。

田代
熟達者だけでなく、多くの理学療法士がそのレベルに到達できるようにするということですね。


そうです。特に、現状ではカルテの記載が自由記述に頼る部分が多く、構造化されていないため、データとして活用しづらい。そのあたりをルールベースで整備していくことで、理学療法士が行っている仕事の価値を客観的に証明できるようになると思っています。

田代
カルテのデータがきちんと活用できるようになると、新しい価値も生まれそうですね。


その通りです。例えば、AIやビッグデータの解析を活用して、理学療法の新しい可能性を探ることができます。こういったデータ活用が進めば、理学療法士が社会に訴えかける力も強まるでしょう。

田代
確かに、AIの発展やデータ活用の時代には、そうした基盤が重要ですね。


そうです。そして、学会としては、理学療法士が日々の臨床で行っていることをもっと体系的にまとめ、教育や実践の現場に還元していきたいと考えています。

田代
なるほど。第1回学術集会が、その第一歩になるということですね。


ええ、そうです。ぜひ多くの方に参加していただきたいですし、この学会を通じて、新しい理学療法の可能性を一緒に探っていけたらと思います。

田代
これまでのお話を伺っていると、理学療法推論学会は、理学療法士個人のスキルを高めるだけでなく、職業全体の価値向上にもつながる、とても意義深い取り組みだと感じました。それでは、現時点で参加を検討している方々に向けて、特に強調したいポイントはありますか?


そうですね。一つ目は、若手の理学療法士や学生が、この推論学会を通じて思考の基盤を整え、臨床での自信を深める機会を持てるということです。二つ目は、この学会が提供する学びが、従来の方法論とは一線を画した、新しい視点であるという点です。

田代
新しい視点、というのは具体的にどういう部分でしょうか?


従来の理学療法教育では、評価方法や介入技術が個別に教えられることが多いですが、それらを統合し、解釈するプロセスがあまり深く議論されてきませんでした。この統合と解釈を「構造化」し、「ルール化」することで、理学療法士としての判断力を底上げしようというのが私たちの狙いです。

田代
そのプロセスを学ぶことで、臨床の質がさらに向上しそうですね。


はい。そして、それが学会活動の一環として体系的に学べる場を提供したいと考えています。また、私たちは「実際に役立つ知識」を重視しています。抽象的な理論だけでなく、具体的な臨床例やデータをもとに学びを深める場を作りたいですね。

田代
具体的な臨床例があると、特に若手や学生には理解が進みやすそうです。


ええ。それに加えて、この学会では新しいチャレンジも予定しています。例えば、懇親会では、参加者同士が気軽に交流し、日々の臨床の悩みや課題について語り合える場を作りたいと思っています。

田代
それは素晴らしいですね!勉強だけでなく、リラックスして意見交換ができるのは、特に若手には貴重な経験になりそうです。


そう思います。学びと遊びのバランスを大切にしながら、理学療法推論を深めていけるような学会にしたいと思っています。

田代
懇親会ではどんなことを考えていますか?


例えば、ライブハウスのような会場で、ゲーム大会をしたり、気軽に飲食を楽しみながら交流を深めたりといった企画を考えています。

田代
それは面白そうですね!参加者にとっても、リフレッシュしながら他の理学療法士とつながれる良い機会になりそうです。


はい。勉強の場だけでなく、こうした交流の場も大切にしながら、学会としての活動を広げていきたいと思います。

田代
懇親会の話もすごく楽しそうです。では、学会の初回学術集会について、もう少し具体的に教えていただけますか?


もちろんです。第1回学術集会は、来年の3月1日と2日に開催します。初回ということで、テーマは「理学療法推論を学ぶ」ことに重点を置き、セミナーやワークショップ形式で構成する予定です。

田代
ワークショップ形式ということは、参加型で進める内容になるんでしょうか?


はい、その通りです。例えば、参加者が自身の臨床経験をもとに議論を深めたり、推論のプロセスを体験しながら学んだりできる場を提供したいと考えています。これまでの学会のように、一方的に発表を聞くだけではなく、実践的な学びを得られるよう工夫する予定です。

田代
それは従来の学会とは確かに違いますね。どんな内容を予定していますか?


具体的には、基調講演やポスターセッションに加え、推論のプロセスを学ぶワークショップ、さらには一般発表なども盛り込む予定です。また、理学療法推論の基盤となる考え方を、より実践的な内容として紹介する場も作るつもりです。

田代
なるほど。初心者からベテランまで、幅広い参加者がそれぞれのレベルで学べそうですね。


その通りです。また、参加者同士の交流を通じて、学びだけでなく新たな視点を得ることも目指しています。

田代
それは楽しみです。ちなみに、懇親会では参加者同士がもっと自由に話せる雰囲気を作りたいとおっしゃっていましたが、どのような企画を考えているのでしょうか?


例えば、ライブハウスのような会場で、ゲーム大会やカジュアルなディスカッションを計画しています。遊びと学びの両方を楽しめる場にしたいですね。

田代
ゲーム大会ですか!それはまたユニークですね。具体的にはどんなゲームを?


スマブラ大会やマリオカート大会などを考えています。もちろん、それ以外にも参加者同士が楽しめる企画を準備中です。

田代
それは盛り上がりそうですね。勉強だけでなく、遊びも一緒に楽しめるのは素晴らしいと思います。


そうですね。理学療法士としての学びを深める場でありながら、リフレッシュできる場でもありたいと思っています。

田代
確かに、そのような場があると、参加者にとって特別な思い出にもなりそうです。


そう願っています。初回の学術集会ですので、ぜひ多くの方に参加していただき、学会の新しい形を一緒に作り上げていきたいですね。

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