代表挨拶
当学会は、理学療法推論の重要性とその学術的探求を深めることを目的に設立されました。当学会では、理学療法士の教育、臨床、研究の各領域における学術的探求を深め、理学療法推論の視点からその本質を探ることにより、理学療法士としての専門性と全人的なサービス提供能力の向上を目指します。
理学療法推論とは、「対象者の症状や機能制限に関するデータ収集に基づいて臨床的仮説を立て、それらを検証し、最適な治療計画を決定するプロセス」です。理学療法士は理学療法推論の結果として個々の対象者に最も適した治療を提供することができます。当学会では、臨床推論ではなく、理学療法士が専門的思考を通して実践することについて、新たに「理学療法推論」という名称を使用します。
理学療法を強調する理由は、理学療法士が行う理学療法を正しく現前させる事にあります。例えば、関節を動かす、歩行練習をするといった理学療法の実践は、他者が見れば理学療法士が行っていなくても理学療法に見えるかもしれません。そのため、少なくとも行為そのものだけを指すとは言えません。では、理学療法士の専門性とは何でしょうか。理学療法士は理学療法推論を基盤とした思考により問題点・課題点を導き(鑑別診断)、予後予測を行い、その理解の上で改善や予防のために用法用量を含めた適切な理学療法を選択し実施する専門家であると考えます。つまり、理学療法推論という思考過程、認知プロセスが理学療法士のアイデンティティを確立していると言えます。
学問としての理学療法推論を考えるだけではなく、臨床実践、つまり実学としての理学療法を常に考えていきます。学習や過去の臨床経験は、情報収集の初期段階における仮説生成とその後の治療介入の選択に大きな影響を与えます。これらの経験を専門家同士で言語化し、共有していくことで、より精度の高い仮説を立て、適切な治療を選択することが可能となります。この考えのもと、私たちは当たり前の理学療法を丁寧に紡ぎ出し、適正化することを目指しています。
日本理学療法推論学会は、理学療法士の皆様がその専門性をさらに深め、対象者に最適な理学療法を提供できるよう支援してまいります。皆様のご支援とご参加を心よりお待ちしております。
日本理学療法推論学会 世話人代表
堀 寛史